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小さな会社・個人事業の経営者に伝えたい7つの提言
ここからは、リアルな私の話(大きな反省)にお付き合いください。
私の経営していた飲食店は、2011年の東日本大震災の後、業績は毎年右肩上がりで、2019年には、一店舗での売上が8千万円に達していました。席数は60、週末や繁忙期に「密」を作ることで利益を出す業態で、田舎町のお店としてはまずまずの繁盛店だと思います。
(コロナ禍前)
私は日頃から「目の前のお客様を満足させよう」と言い続けてきました。それがリピーターを得るための最高の顧客管理であり、コツは料理の原価率を教科書(A)で言われているよりも高めの数字でOKとすることです。このバランス(B)によって結果、客数増と大きな粗利益を確保できるとするコンセプトです。最重要プロセスとそれを実現するための数値目標を設定し下記のような試算を基に運営していました。
*最重要プロセス ⇒ 料理のお得感を出す
*数値目標 ⇒ 原価率33%
(A)客数100人×単価4,000円=売上400,000円×原価率30%⇒粗利280,000円
(B)客数120人×単価4,000円=売上480,000円×原価率33%=粗利321,600円
これが、開店以来築いてきた、当店の利益を出す成功の鍵で、私(経営者)と現場スタッフの間で共有して実行してきました。
そこにあのコロナ禍がやってきて、経営環境は一変します。営業時間は制限され、お客様は蜜を避けどんどん足が遠退いていきます。慌てて始めた、テイクアウトやランチ営業は全く話になりません。常に前年同月を上回ることを目標としていた数字は下がる一方です。
それでも私は、過去には成り立っていたわけで、ある程度売上が落ちても教科書的にFLコスト(「F=Food」は食材費(材料費)、「L=Labor」は人件費)を適正な%にコントロール出来れば、儲からないまでも維持は十分にできると考えていました。
ここで私の事務能力の出番です。過去数年からのFLコスト比率の推移等を、現場スタッフが改善点を理解できるように、仕入れルート別に加工するなどして「今はこれだけの売上しか見込めないのだから」と、改めて具体的な数値目標を提示しました。
(コロナ禍中)
様々な理由からお店はできる限り開け続けることを決定。宴会が減るなどの致し方ない状況に合わせ、最重要プロセスと数値目標を微調整し、試算は下記のようにしました。
*最重要プロセス ⇒ 今来て下さるお客様を大切にする
*目標数値 ⇒ 料理の原価率35%
客数70人×単価3,800円=売上266,000円×原価率35%=粗利172,900円
しかし実績は落ち込み、下記のように目標からかけ離れていきます。
客数50人×単価3,500円=売上175,000円×原価率38%=粗利108,500円
はて、どうしてこのような流れになってしまったのでしょうか・・・その時はその時で必死にやっていたつもりですが・・・原因をロジカルに検証してみます。
来店客の構成が想定上に変わってしまっているのに、最重要プロセスと数値目標の設定が適正でなかったことが考えられます。原価率を低めに設定できる宴会客が0に、常連客比率が高くなったことなどで単価が下がり、加えて原価率が高いおすすめメニューが出る比率が極端に上がったことが要因で、客数、売上が落ちてもコントロールしなければいけないはずの原価率は想定よりも悪化しています。それには「現場スタッフの危機感」が関わっていました。「何とか今来ていただいているお客様だけは逃がしてはいけない!目の前のお客さんを満足させよう!」とする意識です。飲食店の現場は過去から現在、明日へと絶え間なく続き、特に当店は、いわゆる「お客様が人(スタッフ)に付く」ことで成り立ってきました。現場スタッフは原価率を下げた料理を常連客に提供することなど、できるはずがないのです。現場スタッフが一生懸命、決められた通りに最重要プロセスに取り組んでいたわけです。その結果、原価率の数値目標はコントロールを失い、いつ終息するかもわからないコロナ禍の不安の波みにもまれながら、店舗経営は混迷を深めていきます。私(経営者)と従業員の危機感の違いを感じるシーンもあり、自ずとミーティングでも言葉に力が入り、その後、店長裁量の現金仕入の制限など制圧的な対策をとっていきます。最終的には他にあった店舗との統廃合へと突き進んでいくことになります。
大きな反省・・・それは、経営環境が変わった時に、適切な「最重要プロセスと数値目標の設定」ができなかったことです。常日頃からどんな状況下にあっても、足元を正しく把握し先を予測し、その精度を上げる取り組みが足りていない、私がやってきたレベルでは危機に通用しなかったことを証明しています。これは「オリンピック競技でルールが変わっているのに新ルールへの対応が不足したまま演技しているようなもの」で、メダルどころの話ではないのと同じです。私自身の管理、事務能力に過信があったと言わざるを得ません。
次回、「4.成功の鍵は数値目標の達成 ③「数値管理力を磨き続ける」につづく
*この章のお言葉
経営とは数字に基づくものであり、数字に基づかない管理は迷信である。
エドワーズ・デミング